冷徹なカレは溺甘オオカミ
されるがままの印南くんは、結局信号が青に変わるまでおとなしくわたしに頬をつままれていて。横断歩道を渡りながらちらりとその横顔を見上げてみれば、そのなめらかな右頬は若干赤くなっていた。

……勢いでやってしまってから、罪悪感。


一応謝った方がいいよなぁと、うつむきながらぐるぐる考えていると。

わたしが口を開くよりも先に、頭上から小さなため息が降ってくる。



「……柴咲さんって。自分からためらいもなく俺に触れてくることあるくせに、俺が触ろうとするとものすごい固くなるか逃げますよね」

「え、」

「それってすごく、ずるいですよ」



言いながら印南くんの手が、一度ふわりとマフラーに触れた。

急に近くなったその大きな手の存在に、びくっと身体が反応する。

わたしを『ずるい』と言った彼のつぶやきは、それでも責めてるようには聞こえなくて。むしろその声音はすごくやさしいものに感じたから、戸惑う。



「……ず、ずるい?」

「ええ、ずるいです」



きっぱり言い切った彼のセリフは、けれどもどうしてか、少しの笑みを含んでいたから。

わたしはわけがわからなくて、「そ、そうですか……」と間抜けな返事をすることしかできない。


そんなわたしの隣りを歩きながら、ふと、印南くんが斜め上に視線を向け、何か考える素振りを見せた。



「……ああ。でも、」



つぶやいて、再びわたしへと視線を寄越す。
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