冷徹なカレは溺甘オオカミ
お疲れさまですー、なんてお決まりのセリフを印南くんとふたり言いつつ、オフィスのドアをくぐり抜ける。

ちなみに印南くんのマフラーは、ビルのエントランスに足を踏み入れる前即座に返却済み。もし社内の人間にバレたりしたら、またいろいろ面倒くさいことになりそうですからね……。


とりあえずわたしはジャケットとバッグを置くために、まっすぐ更衣室へと向かった。

そうして第1営業グループデスクの島まで舞い戻って来ると、軽い調子で声をかけてきたのは矢野さんだ。



「おう、柴咲さんお疲れー」

「お疲れさまです。矢野さん、留守の間特に問題なかったですか?」



キャスター付きの椅子を引きながら、向かいの席に座る矢野さんに訊ねる。

すると彼は、どうしてかにやりと意味ありげな笑みを浮かべた。



「問題、ではないけど……柴咲さんのこと、お待ちかねのヤツがいるよ」

「え。お待ちかね、ですか?」

「今は、16階のラウンジに行ってる。そろそろ戻ってくるんじゃないかなー」

「えぇ……?」



含みを持たせた彼の言い回しを疑問に思いながらも、とりあえず椅子に腰をおろした。


わたしのことお待ちかねって、一体だれが?

矢野さんの口ぶりからすると、取引先の人って感じでもなさそうだし……。


隣りの席の印南くんはわたしたちの会話なんて興味なさそうに、パソコンのメールをチェックしている。

そうこうしているうちオフィスの出入り口あたりが急に騒がしくなった気がして、何気なくそちらを振り向いた。
< 130 / 262 >

この作品をシェア

pagetop