冷徹なカレは溺甘オオカミ
オフィスに入ってきたのは、背の高い男だった。

まわりを同僚たちが囲っているせいで、こちらからはワックスでオシャレにセットされた頭部しか見えない。

誰だろう、と思いながらもその方向を眺めていると、矢野さんがイタズラっぽく笑った。



「柴咲さんが、よく知ってる人。──帰ってきてるんだよ、“アイツ”が」

「アイツ、って……」



その長身の男性が、こちらに向かって歩いてくる。

だんだん近づくたび、彼が着ているグレーのスーツや青いネクタイ、さらにはようやくその顔までも拝むことができて、わたしは思わずあっと声をあげた。


いつだって自信に満ちあふれた表情。軽薄そうに見えるけれど整った顔立ち。

笑うと目元にくしゃりとシワが寄る、その男性はたしかに、わたしが嫌ってほどよく知っている人物で。


……どうして、今このひとが、ここに?


椅子に腰かけたまま驚きで声を出せないでいるわたしの目の前までやって来ると、その人物はこちらを見下ろしてさらに笑みを深めた。



「──久しぶり、柴咲。元気だったか?」

「、か……っ」

「いやいやいや、マジで相変わらずいい美女っぷりしてるなあ柴咲! よしっ、俺らの再会を祝して、この後いっちょホテルでも行くか!」

「黙って梶谷(かじたに)」



眉ひとつ動かさないわたしのキレッキレなひとことに、それでも梶谷はまったくこたえる様子も見せず「手厳しいねぇ」なんて肩をすくめている。

記憶に残るままの、相変わらずな彼の様子。つい呆れたようなため息を吐きながら、けれど自然と、口元には笑みが浮かんだ。
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