冷徹なカレは溺甘オオカミ
「だ、だって……、」

「『だって』?」



じり、と距離を縮めながら、意図してか先ほどまでよりずっとやさしい口調で促されて、思わず本音を吐露したくなる。

だけど口を開きかけたそのとき、これではまた彼のペースになってしまうと我に返って。

一度視線を床に落としたわたしは、思いきって再び彼を見上げた。



「……そんなのは、もう、どうでもいいことなの」

「、」

「と、とにかく、“偽恋人”はなかったことに──」



話の途中、腰が固いものに当たり、ハッとしたわたしは背後を振り向く。

静かに迫ってくる印南くんから逃げるように後退していた身体が、いつの間にか部屋の中央にあるテーブルにぶつかってしまっていた。

しまった、と思ったのと同時、わたしが後ろ手をついたそれを囲うようにして、音もなく両脇に大きな手が置かれる。



「……気に入らない」



その手とは、間違えようもなく今目の前にいる彼のもので。

どうしてか不機嫌につぶやいた印南くんは、めずらしく表情にもそれを表しながら、こちらを見下ろす。



「柴咲さんのその申し出には、確固たる理由があるように思えますが……どういうわけか、それを隠そうとしてる」

「っべ、つに、わたしは、」

「あなたが急にそんなことを言い出した、その理由は何ですか?」
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