冷徹なカレは溺甘オオカミ
まっすぐな瞳。逃げるように、視線を落とす。

押し黙るわたしの真上から、ぽつりと声が降ってきた。



「もしかして、すきな男や彼氏が、できたんですか?」

「っ、ちが……っ」



勢いよく顔をあげながら言いかけて、すぐにそんな自分の言動を後悔する。

嘘でも、彼の質問にうなずいておけば、この場を切り抜けられたかもしれなかったのに。


ますます不機嫌オーラをただよわせる印南くんが、ぐっとその端整な顔を近づけてきた。



「じゃあ、なんなんですか。もしかしてまた、誰かに何か言われたんですか」

「………」



そのとおりです、なんて答えることもできず、わたしは目を泳がせてただただ黙秘を貫く。

あまりに近いこの距離で、働きすぎな心臓もそろそろ心配になってきた。絶対顔も赤いと思うんだけど、印南くん気づいてないのかな。気づいてるだろうな。


……どうして印南くんは、ここまで食い下がってくるんだろう。

ただひとこと、「わかった」と言って、うなずいてくれればいいだけなのに。

いつも年上や上司に対して従順な彼にしたら、これはとてもめずらしいことで。


もしかして、なんてちょこっと顔を覗かせた淡い期待は、すぐに頭の中で打ち消した。

期待なんて、したらしただけ、そうじゃなかったときのダメージが大きいから、しない方がいい。

それに、相手はこの印南くんだ。いっつも無表情で感情が読めなくて、何を考えているのかわからないことに定評のある印南 大智氏。

そして実はやさしい彼のことだから、ただ単に、わたしに同情してくれてるだけで──。
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