冷徹なカレは溺甘オオカミ
「……やっぱり強情ですね、柴咲さん」



そんなセリフとともに、わたしのあごを捕らえた彼の指先。

そのまま強引に上向かせられ、突然のことに驚いて息を飲む。



「言わないと、このままキスしますよ」

「っえ、な……っ、」



な、なにを言い出す、この男は……!!

思わず、目を見開いた。同時に、すでにせわしなく動いていたはずの心臓が、まだひときわ大きくどくんと高鳴る。

距離にして、約20センチほど。眉間にシワを寄せて仏頂面の印南くんは、そんな至近距離でわたしの返答を待っているようで。



「………」



一瞬、視線を外して逡巡した。

けれどもすぐに答えは出て、小さくくちびるを動かす。



「……言わない」



──彼を守るために、わたしの方から、離れなくては。

涙をこらえて固めた決意は、そんな甘い脅しくらいじゃ揺らがない。

それに正直、印南くんがさっきの言葉を本当に実行するとは、思えなかった。

ディナークルーズのときもそう。いつだって彼は、わたしが多少なりとも抵抗を見せれば、戯れをやめてくれていたからだ。


だからきっと今回も、なんだかんだで引いてくれるはず。

そう考えて彼の方へと視線を向けたわたしは、そのまま印南くんの手を振りほどこうとして。



「っひゃ……っ」



逆にがっちり腰にまわされた手に引き寄せられ、思いきりその胸板に飛び込んでしまった。
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