冷徹なカレは溺甘オオカミ
な に を だ こ の 能 面 男 は ……!


あまりにも恥ずかしい物言いに言葉を失い、わなわなとくちびるを震わせた。

髪をまとめていたシュシュをちゃっかり外し、彼がわたしのこめかみにキスを落とす。



「ほら、前に柴咲さんが持ってた小説にもあったんじゃないですか? こんなシーン」

「………」



言われてみれば……あった……かも?

というか、そんなことはどうでもいい。この状況から抜け出すには、一体どうすればいいのか。

さっきからわたしの心臓はもはやドキドキなんてレベルじゃなく早鐘を打っているし、これ以上好き勝手されていても、どんどん目の前の男に溺れてしまうだけのように思える。


なのにほどけた髪をやさしく梳く彼の手を素直に気持ちいいと思ってしまっている自分は、本当に、大馬鹿者だ。



「……柴咲さんの好きな俺様御曹司が、どんなふうに女性を口説いていたのかは知りませんけど、」



またその話を、という反論をする余裕もないまま、彼の熱っぽい眼差しに吸い寄せられる。



「今は俺を、その男に重ねれば、いいですよ」



言うが早いが再びくちびるをふさがれたときには、わたしもすでに、目を閉じていた。


……その男に重ねればいいって。小説の中の登場人物を引き合いに出すなんて、むちゃくちゃだ。

たしかに、物語の中で生きるあの男性は、魅力的で。ページをめくりながら、ヒロインと一緒に、わたし自身も胸を高鳴らせていたけど。



「っん、ふ、ぁ……っ」



それでも、今、わたしに触れているのは。

わたしが、抗いようもなく、惹かれているのは。
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