冷徹なカレは溺甘オオカミ
「たしかにあのとき受け取ったのは、鈴音が住んでるマンションの鍵ですけど……でもそこは、あいつだけの家ではないんですよ」

「……どういうこと?」

「鈴音、結婚してるんです。俺の兄と」



たぶん、そのときのわたしは、相当間抜けな顔をしていたに違いない。

口開いてますよ、なんておかしそうに笑いながら、印南くんがわたしのあごに手を添える。



「あの夫婦、最近猫を飼い始めて。で、あの日はもともと、晩飯がてら猫と遊ばせてもらう約束してたんです。結局ふたりとも仕事が遅くなりそうってことで、職場が近い鈴音から鍵を借りて先に家で待つことになったんですが」

「……ねこ」

「俺にやたらなついてくれて、かわいいんですよ。スコティッシュフォールド」



……もしかして。カフェで鈴音さんとの会話の中で言ってた『かわいくて仕方ない』って、その猫のこと?

わ、わたし、まさか勘違いで猫に嫉妬してたの? というかこれって本当に、印南くんと鈴音さんの間にはなんにもない感じ?



「俺と鈴音の婚約が破談になったのも、実はその頃兄が鈴音に告白して、いろいろあった末ふたりが付き合うことになったからなんです。兄は昔からずっと、鈴音のことがすきだったみたいで……なのに高校生になってものほほんと俺との婚約を続けている鈴音に気をもんで、とうとう行動を起こしたらしいです」

「……印南くんは、鈴音さんのこと、女性としてすきになったりは……」

「ないですね。義理の姉ってことになってますが、気持ち的には完全に妹です」
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