冷徹なカレは溺甘オオカミ
印南くんはそこで、少しだけ苦しそうな顔を見せた。



「本当にすみません。あれは……俺の、最低な欲のせいです」

「……欲?」

「あの時点で俺は、だいぶうぬぼれてました。前の日のキスも、あなたは拒まなかったし……少なくとも、普通の同僚以上には、見てもらえてると思ってたんです」

「………」



まあ……実際もう、あのときにはすきになってましたけど。

けど改めて気づかれてたのかと思うと、若干恥ずかしくなってくる。



「それであのとき、鈴音のことを『婚約者だ』と言ったのは──それを聞いたあなたが、もしかして泣いてくれるかもって、思ったんです」

「え……」

「一瞬でも、あなたを傷つけることで、その気持ちを確認しようとした。……だけど柊華さんは、俺が思ってた以上に、強くて意地っぱりで」



頬を撫でる手はそのままに、彼は小さく苦笑した。



「あなたの性格は、ちゃんとわかってたつもりなんです。でも自分で勝手にふっかけておきながら、あなたの『よかったじゃない』って話す笑顔を見た瞬間、相当ショックだったんですよね。あの状況でも笑えるくらい、俺のことはどうでもいいんだって」

「そ、」

「──でも、今は違います」



印南くんの大きな手で、両頬を包まれる。

あたたかい体温。その持ち主が今、目の前で微笑んでいる。
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