冷徹なカレは溺甘オオカミ
彼女は、笑った。

怒るわけでも、謝るでもなく。あくびの瞬間を目撃していた俺に気がついた柴咲さんは、口元に手を添えたまま、照れくさそうにふにゃりと笑ったのだ。

まったく予想していなかった反応に、俺はそのまま硬直。

こちらの様子に気づいていないらしい彼女はその後あっさり俺から視線を外し、再び表情を引き締めてパソコンへと向き直った。



「………」



……今のは、まぼろし?

いや違う。たしかにこの目で見た。

たしかに見たし、さっきのはにかんだような柴咲さんの笑顔が、頭から離れない。


流した浮名は数知れず。完全無欠、百戦錬磨の柴咲 柊華さん。

俺の中の彼女が、少しだけ印象を変えた瞬間だった。
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