冷徹なカレは溺甘オオカミ
時は過ぎて、10月も半ばに差しかかった頃。

矢野さんとともにオフィスが入っているビルの16階ラウンジに来ていた俺は、コーヒーで軽く息抜きをしていた。



「あー、この時間のコーヒーしみるわあ」

「そうですね」



矢野さんは息抜きが好きだ。たいていは俺もそれに引っぱられて、こうして同じカフェテーブルにつくことになる。

ちらりと腕時計に視線を落としてみれば、現在時刻は17時少し前。今日は就業後に課内の飲み会があるから、ビルを出られるのはあと1時間ほど後か。



「そういえば印南、前に言ってた“気になる人”の話はどうなった?」



片手でテーブルに頬杖をつきながら、にやにや笑いで矢野さんが言った。

その問いに、俺はピタリと動きを止めて。
口元に持っていきかけていたコーヒー入りの紙コップを、再度おろす。



「その話は、前にもしたと思うんですけど。どうにもなりませんって」

「いやー、男女の仲なんて何がキッカケで進展するかわかんねーからさあ。つーか、せっかく印南イケメンなんだから、もっとぐいぐい行けばいいんじゃん?」

「顔の好みは人それぞれなので、そんなの武器にできませんよ」



今度こそコーヒーを飲み込んで淡々と答えたら、「イヤミか!」というセリフとともにわりと強く頭をはたかれた。一体俺にどうしろと。
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