冷徹なカレは溺甘オオカミ
以前男ばかりの飲み会で彼女の有無の話になった際に「気になる人はいますけど」とうっかり答えてしまって以降、矢野さんはこうして定期的に進捗状況を訊ねてくるようになった。

名前は伏せているその『気になる人』というのが、実は隣りの席の柴咲さんのことだったりするのだが。
相変わらず彼女の彼氏やら愛人やらの存在に関する噂は絶えないし、これといってアプローチもできずにいる。

異動してから今日まで見てきた柴咲さんは、基本的に“デキる女”のオーラをまといつつも、どこか抜けているところがあったりして。

そんなところに惹かれている自分がいるのは間違いないけれど、だからといって恋愛感情なのかと訊かれれば、そこまでの気持ちでもないような気がする。


きっとこの先、彼女に愛の告白なんてものする日は、おそらく来ない。

今と変わらないただの同僚という関係を、ずっと続けていくのだろう。



「さってと、飲み会までもうひとがんばりしますかぁ」

「はい」



うーんと伸びをしながらの矢野さんのセリフにうなずいて、立ち上がる。

空になった紙コップをゴミ箱に捨ててからエレベーターホールに向かう途中、ふと俺はあることに気がついた。


……あそこの、観葉植物のそばに立ってるのって。柴咲さん、だよな。

10メートルほど離れたその場所にいるのは、つい先ほど話題にのぼっていた隣りの席の高嶺の花。

彼女はどうしてか、背の高い観葉植物に隠れるようにじっと立ちつくしている。
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