冷徹なカレは溺甘オオカミ
いつだってしゃんと背筋を伸ばして。他人の評価なんてこれっぽっちも気にしていませんって顔をして。

そんなふうに見えてしまう彼女は、けれどもこうやって、今までも影でひとり涙をこらえていたのだろうか。

悲しみを、押し殺していたのだろうか。


そう思うと、たまらない。

たまらなくて、今すぐにでも、彼女をきつく抱きしめたくなってしまう。



「印南? どうかした?」



少し先にいる矢野さんが、不思議そうな表情で俺を振り返る。

さりげなく柴咲さんから視線を外し、俺は面倒見のいい先輩の隣りへと並んだ。



「……矢野さん。俺今、まるでずっと男だと思っていたルームメイトが実は男装した女でしかも結構かわいくてそのうえその子が俺のことすきとか言い出して今まで築いた友情のことを考えればそいつのこと男友達としか見ちゃいけないと思うのにその子の素顔を知ってからは見るたびドキドキしてしまってついこないだまで大事な男友達だったはずなのに素直に女として意識してる俺は一体どうすればいいんだ……!っていう感じの心境です」

「……なんかよくわかんねーけど、よかったな」



引きつった顔を見せる若干投げやりな矢野さんの言葉に、「はい」とうなずく。
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