シャッターの向こう側。
「これは……?」

 そこには『荒城 雄一郎』の文字。

「昨日、Kミュージック経由で渡された。良かったな」

 何が?

「パンフの写真、気に入ったんだとさ」

 はい?

 パンフ?

 写真?

 あ。

「この間のロックフェスタ!」

 Kミュージックと私の接点なんてソコしかないし。

「でも、何故名刺を?」

 スパンと頭を叩かれて、上目使いに宇津木さんを見ると、そこに呆れたような不機嫌な顔。

「お前はどうして頭を使わない」

 だって、荒城雄一郎って言ったら有名な風景写真家でしょう?

 その人の名刺が、何故私に廻ってくるのかが解らないけど。

「連絡をくれとの事だ」

「……私が?」

「俺は撮ることには興味ないからな」

 と言うことは……。

「ぇええええ~!?」

「うるさい」

 また叩かれて、頭を押さえながら名刺の文字を追う。

「なんで? どうして?」

「出来が良かったからだろ」

 今度は頭をくしゃくしゃにされ、ぼんやりと立ち上がった宇津木さんを見上げた。


「出来が……?」

「楽しんだだろう?」

 ニヤッと笑われて、瞬きをする。


 楽しんだ。

 うん。

 とっても楽しかった。

 楽しくて、熱狂して、我を忘れてた。


「言っただろうが」


 ……何を?


「足掛かりなんてどこにでも転がってる。それをチャンスにするか、見逃すのか、それは自分次第だ」

 宇津木さんは目を細め、軽くデコピンをしてフッと笑う。

「ま。どんな話になるかまったく解らないがな。気に入ったんだと言うのは建前で、文句かも知れないぞ?」


 ……怖いことを言うな!


 宇津木さんはそう言って、ファイルを手に持つとフロアを出て行った。

 手元に残された名刺をマジマジと眺め、それからにんまりと笑う。


 嘘じゃないよね!?

 携帯を取り出し、ウキウキ気分で坂口さんを夕飯に誘い出した。
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