シャッターの向こう側。
 そして今、目の前には2個のビールジョッキ。

 おつまみには枝豆と熱々の焼鳥。

 そして、名刺を片手に目を丸くした坂口さん。

「いやぁ……凄いね」

「はい!」

 坂口さんは名刺をつくづく眺め、小さな溜め息を吐いた。

「荒城雄一郎と言ったら、アレでしょ? 海外でも有名になりつつあるよね?」

 そう! 外国のアーティストフォトコンテストで日本人で初めて賞を取った有名人!

「はい! グランドキャニオンとかの写真は有名ですよね! 日本を中心に活動されてますが、写真集もすでに何冊か出されています!」

 そんな人から連絡を欲しいなんて言われるなんて、なんか有頂天!

 気分はウキウキ、ハイになるってもんよね!


「もう、連絡は?」

「あ。待ち合わせの最中に……」

 させて頂きました。

「なんて?」

「雑誌の企画で、季節の写真を撮るんですって。それに参加して見ないかって!」

「……ふぅん」

「……………」

 坂口さんはニコリともせずに名刺を眺めたまま、ビールのジョッキを持ち上げた。

「私、嬉しいんですが」

 ポツリと呟くと、坂口さんがはっとして笑顔になった。

「だよね! 凄いことだよ!」

 明らかに目が笑っていない。

 私……何かしたかな?

「じゃ、お祝いだね」

 坂口さんは何事もなかった様にジョッキを差し出した。


「ありがとうございます」


 だから、私も何事もなかった様にジョッキを合わせる。

 カチン……と言うガラスの打ち合う音が響いた。

「写真家への第一歩だね。おめでとう」

「まだまだ先は長いですけどね~」

 そう言ってにこやかにしながら、何故か首を傾げる。


 しっくりとこない。


 何かが違う。


 そう考え始めたのは最近の事じゃない。


「あ。この焼鳥、美味しいよ?」


 優しく笑う坂口さんに微笑む。

 坂口さんは優しい。

 付き合っているうちに、柔らかいけどすごい事を言うのも気付いた。

 だけど、基本的には〝とてもいい人〟。

 いい人で優しくて、顔もいいし、足も長いし……
< 154 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop