シャッターの向こう側。

直視……もしくはイマジネーション

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 ホテルの朝食って、結構好きだったりする。

 スクランブルエッグに、ブロコッリーのサラダとミニトマト、カリカリのベーコンにトースト、それからミルクたっぷりのコーヒー。

 洋食一辺倒なのは、やっぱりホテルだからか……

 パクパク食べていると、宇津木さんはげんなりと新聞片手にブラックコーヒーを飲んでいた。

 私が子供っていうより、この人が単に親父なだけじゃないだろうか?

 ひしひしとそう考えていたら、宇津木さんは咳払いした。


「よく食うな」

「おかげ様で」

「別に褒めてない」


 ……なら言うな。


 蹴られるのが目に見えてるから、そんなことは言わないけど。

「そういやお前。入社当時より肥えたよな」

「……ブハッ」

 コーヒーを吹き出して、咳きこんだ。


 こえ……

 肥えただとぅ!?


「女性に対してなんてこと言うんですか!!」

「いや。ガリガリよりはいいんじゃないか?」

 宇津木さんは涼しい顔で新聞に視線を落とし、美味しそうにブラックコーヒーを飲んでいる。


 褒めたのか?

 褒め言葉なのか!?


 全然、そうは聞こえなかったけど!?


 ハンカチで口元を拭き、ミニトマトをフォークで刺す。

「宇津木さんの好みは、ふくよかな方なんですね」

「……いや?」

 新聞の記事からは目を逸らさず、宇津木さんは眉をしかめる。

 記事に眉をしかめてるのか、私の言動に眉をしかめてるのか判らないけど、とりあえず足と手が出てこないところからすると、後者ではないのかもしれない。

「ガリガリは好みではないと……」

「何でお前とそんな話をしなきゃならないんだ?」

 新聞をバサリと置いて、宇津木さんは腕を組んだ。

「先に言い始めたのは宇津木さんじゃないですか」

 ミニトマトをモグモグさせながら、次にスクランブルエッグを眺める。

 このスクランブルエッグ、バターがきつい。

「ま、宇津木さんの女性の好みなんて、どうでもいいですけどね」

「当たり前だ。お前には全く関係ないしな」

 ……関係があってたまるか。

 無言で目を細めると、皮肉げに笑われた。

「今日はどこを回るんだ?」

「そうですねぇ……自然地区にします」

「また迷子か?」

「……遊歩道から出るつもりはありませんよ」
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