シャッターの向こう側。
「宇津木さんて、昔のデザインとか見て、昔の方が良かった……って事あります?」

「ない」


 ……ふっ

 相談した私が馬鹿でした。

 倒れそうになったわよ。

 すぐそこが地面じゃなきゃ、倒れ伏していたかも知れない。

 2秒で終わらせないでよ、2秒で!!

「って事は、お前はあるわけなんだな?」


 お?

 俯きかけた顔を上げると、今度は難しい顔の宇津木さんがいた。

「俺の場合、昔のデザインは妙に凝っていて好きじゃない。確かに技巧は駆使していただろうが……」

 そう言いつつ、ますます眉を寄せてジロッと睨まれた。

「感覚的な部分を言葉にするのは難しい」

「……感覚的ですか」

「そうだな。例えばピカソ」

 ピ、ピカソ!?

 またえらく巨匠を引き合いに出して来ましたね。

「ピカソの絵は初期の頃、子供でも描けると言われていた事がある」

「はぁ……」

「俺も最初見た時はそう思った」

 まぁ……今でこそ〝天才〟と言われる人ではありますが。

 黄色や青の顔の女性画とかをパッと見ても、素晴らしいとは言い難い。

「ピカソに写実を描かせると、写真の様に精巧な写実画を描いたと言われているのは知ってるか?」

「知りません」

「つまり、基礎や技術をしっかりマスターした後、ピカソが表現したのは感覚的な部分だと俺は思っている」


 感覚的か。


「俺も正確には勉強した事がないから、どう言われてるか知らんが」

 私も絵画は疎い。

「感覚を受け取る感覚を持ってる人間じゃなければ、ピカソはうだつの上がらない貧乏画家で終わっていただろうな」

 うん。

 間違いなく。

「俺はお前の場合、感覚はあると思っている」

「……は?」

「追い付いていないのは技術だな」

「ん?」

「専門学校を卒業した割に、技術面が伴ってないのはある意味で才能だが」

 沈黙をして、宇津木さんは首を傾げる。

「いや、技術はあるんだ」

「はい?」
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