シャッターの向こう側。
 ……前にも似たような事を言った人がいたな。

「最近は宇津木くん、ちゃんと手加減してるみたいじゃない」

「手加減?」

「宇津木くんて、男性も女性も容赦なく叩くのよ?」

「…………」

 そう言えば最近、星が飛んで行く程は痛くないかも知れない。

「そもそも、叩くのがどうかな……と思いますが」

 大人としては。

「神崎ちゃんはよく叩かれてるわよね」

 あの。

 何だか矛盾して聞こえますが。

「私もたまに叩きたくなるわ~。神崎ちゃんて集中しだすと滅多に気付いてくれないから」

 ……それは、何度か言われたな。

「そんなに気付かないんでしょうか?」

「うん。気付いてくれないわね~」

「気をつけます」

「気をつけてもねぇ……そういうものなのよ、神崎ちゃんは」


 にこやかに軽く言ってくれるけど、それって悪い癖なんじゃ……

「あ、仕事に集中してるんだな……って解るし、逆に嬉しいくらい」

「はぁ……」

「でも神崎ちゃんの場合、集中しすぎるとハラハラする場面もあるわね」

「ハラハラ?」

「特にカメラを持つとファインダーの中しか見ていないじゃない? 転びそう、とか、落ちそう! って、よくあったもの」

「…………」


 そうか。

 何となく服を引っ張られる理由が読めてきた気がする。

 呼んでも気付かない私。

 踏み止めるには、引っ張るしかないわよね。


 でも……

 やり方が無茶苦茶な。

 もっと他に、もうちょっと柔らかなやり方があると思うんだけど。

「宇津木さんて、基本的に面倒臭い事が嫌いなんですね」

「そうね。自分に関わる所は手をかけるけれど、他はスッパリ切り捨てるわね」

 そんな事は聞いてなかったんだけど。

 ふと加納先輩の顔を見る。

 つまり宇津木さんにとっては、私は自分に関わる人間……という事なんだろうか?


「解りにくい人よね?」


 とても。
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