シャッターの向こう側。
「口数はそんなに多くないし、しかもあの口調でしょう? ま、誤解されやすいわよね~」

「そうですね」

 薄々、不器用なんだな……とは思っていたけど……

「それに、驚いたわ」

 晴れやかにニッコリ笑顔の先輩に、思いきり首を傾げる。

「驚いた、ですか?」

「うん。宇津木くんて、仕事上の面倒事は極力避けて通る様な所があるんだけど」


 ああ……

 それは私も昔は感じていた事。

 一緒に仕事するようになって、結構、面倒見がいいんだな……と。

「神崎ちゃんに、スタッフとか他の人に何を言われようが責任取る。なんて言ったのが信じられないわ」

 は……?

「だいたい宇津木くんて、仲のいい人以外は会話もしないのよ。そんな彼が面倒を承知で神崎ちゃんに好き勝手させるなんて」


 え。


 あの……


 もの凄い言いようですね?


 でも、あれだろうか?

 ミュージックフェスティバルでの事を言ってるんだろうか?

 他のスタッフに何を言われようが、他部署の馬鹿に何を言われようが、お前は気にするな。

 それが、あの時に言われた言葉。

 撮りたい様に写真が撮れないジレンマは昔からあった。

 あのイベントは他部署の人もたくさんいて、中にはデータを急かす人もいる。

 ネガから写真に現像してデータ化するのと、デシカメからデータに起こすのとでは早さが段違いに違う。


 だから、デシカメを選んだ私に言われた言葉。


 正直、気が楽になった。

 自由に撮れ……と言われて。

 本当に。

 結果として、データを起こすのを宇津木さんはいつも待ってくれる。

 グラフィックスとしても、ディレクターとしても、かなり面倒な事だと思うのに。


 ……ううん。

 気が楽になっただけじゃない。

 私はあの時、とても嬉しかったんだ。
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