シャッターの向こう側。
 だから……

「勝手に人の食べるもの決めないでくれませんか?」

 写真を見比べている宇津木さんに抗議すると、また溜め息をつかれた。

「文句の多い奴だな。黙っていられないのか?」

「食べるものくらい、自由に決める権利が私にはありますからっ!!」

「ああ、そうかもな」

 そしてまた、写真に集中し始める。


 ……このっ!!


 思わず立ち上がりかけた時、宇津木さんがポツリと呟いた。

「さっき、旨かったんだ」

「……は?」

「と、言う訳で奢りだ。感謝して食え」


 ……食えるか!!!


「どうせ、貧乏人だろ?」


 ……ん?


「出張の手続きは俺がやったが、給料日前だったのを忘れてた」

「それが何か?」

「仮払い申請を忘れてた」

「……まぁ、その様ですね」

 仮払いがあれば、会社から事前にある程度の経費が下りるから、タクシー代にブツブツ言わなくて済むけど。

「お前がフォトグラファーとしては、平なのも忘れてた」

「……はい?」

「俺は新人みたいなのとは組まないからな」


 新人で悪かったですねっ!!!


 確かに2年いるけど、入社2年のフォトグラファーなんて余程有名な人以外は新人扱いですよ。

 給料もヒラヒラなら、お財布もヒラヒラな中身だけどねっ!!

「……なんか、恩着せがましい」

 スパンと写真の入っていた封筒の角で、見事に叩かれた。

 ……紙の封筒の分際で、角は痛い。


「お前は一言多いな」

 表情も変えずに呟かれて、しぶしぶ黙り込んだ。

「しかし、なんかズレた写真ばかりだな」

 言われて、眉を上げる。

「ピント、ズレてましたか?」

「いや。多分それはいい。しかし、何か伝わってこない」


 ……伝わってこない?


 首を傾げると、宇津木さんは写真をまとめて足を組んだ。

「ヒヨコ。お前は写真家の端くれだろ」

 言われて、ぐっと押し黙る。
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