シャッターの向こう側。
「見ていると、ただ撮っているだけの様に見える」

 宇津木さんはそう言って、ヒラヒラと一枚の写真を引き抜いた。

「例えばコレ」

 見ると、椰子の木の写真だ。

「構図は悪くない。普通一般的な広告ならば、これでも悪くない」

 そう言って、戻す。

「言うならば……そうだな。ありきたり、どこにでもある、誰にでも撮れる。つまりは人のマネか?」


 最後の言葉がグサリと突き刺さる。


 ……誰にでも。


 つまり、私じゃなくても……


「最初に言ったよな? お前がいいと思うものを撮って来いって」

 ……確かに聞いた。


「あれだけこだわっただけあって、ジェットコースターでの写真はいい出来だが、植物園は全滅だぞ?」

 深い溜め息をつかれて、テーブルを見つめた。

 とてもじゃないけど、宇津木さんなんて見れない。


「いいか、神崎」

「……はい」

「お前らしいもの撮って来い」


 ……私らしいもの?


「今まで、どんな馬鹿と組んで来たか知らんが、忘れろ。写真のプロを目指してるなら、それに相応しい仕事をしろ」


 ……プロを目指すなら。


 ゆっくりと顔を上げると、宇津木さんと目があった。




 思わずドキリとする。




 いつもの皮肉げな笑みでもなく、苦笑でもなくて……


 何だか暖かささえ感じる様な、そんな視線で……



「おじいちゃん!!」

「誰がじいさんだドアホ!!」


 思いきり叩かれたのは、まぁ、ある意味仕方ないかもしれない。















< 30 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop