シャッターの向こう側。
「何。お前聞いてないの?」

 宇津木さんはあっけらかんとしていて、坂口さんは苦笑しているのが見えた。

 そりゃ、坂口さんは聞いてないよ。

 契約になるって決めたのはお別れしてからだし。

「しっかし、お前が手放すとは思ってなかったけどなぁ?」

 坂口さんのからかうような声に、

「手放すも何も、俺のもんでもないし」

 すんなりと宇津木さんは肩を竦めて答える。


 その通り。

 ……私は誰のものでもないですよ。


「宇津木って、神崎ちゃんの事を好きなんだと思ってた」


 坂口さんの言葉に沈黙が落ちた。


「……どう言う意味だ?」

 宇津木さんの低い声に、

「そう言う意味だけど」

 坂口さんが明るく答える。

「…………」


 ……また落ちた沈黙がいたたまれない。

 やっぱり盗み聞きはよくない。

 絶対よくない。

 そう思うのに身体は動かなくて……


「俺さ。お前って嫌いだったんだよね」

 坂口さんの言葉に宇津木さんがきょとんとしたのが見えた。


「俺……お前になんかしたか?」

 戸惑ったような声に、坂口さんが苦笑する。

「何もしてないよ? 何もしてないけど……」

 坂口さんは宇津木さんの肩に指を突き付け、なぜか笑顔で首を傾げた。

「その何もしてないってのが、ムカついたんだよね」

「はぁ?」

「専門学校にも行ってない。普通大学出の坊ちゃんが、次々とデザイナーとして華々しく出世していくからムカついた」

「お前……気持ち悪いから」

「……俺もそう思う」

「それに、俺は別に華々しくもないが」

「同期うちじゃ一番の出世頭だろ?」

「加納だって同じ立場だ」

「加納女史じゃ、荒木さんの補佐は勤まらないだろ」

「今度伝えておく」

「それはやめてくれ……って、そう言う飄々としたとこがムカつくんだって」


 うん。

 言ってることがとても解るような気がする。

 宇津木さんっていつも飄々としてて、大した努力の跡も見せない。

 別に影で努力してるとか、頑張っている様子も見せない。

 そこが逆にむっとする事がある。
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