シャッターの向こう側。
カラー:

写真家……もしくはヒヨコ

******





 あれから色々考えさせられた。

 確かに、トマトソースのスパゲティは美味しくいただいたけど、実際はお腹すいてたし。

 いや、そうじゃなくて。

 植物園が全滅。

 選ばれた写真はジェットコースターと、白黒ながら湖面を撮った写真だけだった。

 後から考えると、ちょっと腹立たしいけど、何とも言えない自分が嫌だった。

 確かに、デジカメで撮った写真は自分自身でも納得はいかない事が多い。

 会社の人間としてではなく、写真家としての自分が見るならば……

 だから、今日は張り切って撮り直しに来たわけなんだけれども……

 思えば、なんでこの人は付いてくるんだろう。


「植物園は暑いな……」

「文句を言うなら、ついてこなくていいですよ」

「そういう訳にもいかない」

 ……何故だ。

 ブツブツ横目で見ながら、ファインダーを覗く。

 考えてみると、このお祖父ちゃん譲りのカメラを、仕事に使うことはない。

 確か使っても数回。

 ほとんど没になったけれど。


「………ん?」

 ファインダー越しに見ていた風景から、ふと顔を上げる。

 ヤシの木の向こう側。

 鬱蒼と生い茂った草の向こうに、綺麗な青紫を見つけた。

 小さな花の群生。

 気付かない程に隠れてひっそりと咲く花。


 あれ、綺麗だ。


 歩きかけ……


「ぐはっ……」

「だから、お前はどうしてそうなの?」

 首が絞まって奇声を発した私を、宇津木さんはあきれ顔で眺める。


「そりゃ……こっちのセリフですから。なんで首を絞めるんですか」

「好きで絞めてるわけじゃないぞ。気持ち悪い」

 その、気持ち悪いってのはなんですか。

「お前、道外れるぞ?」

「どういう意味ですか。私は真っ当に生きてきてますよ!」

 宇津木さんは無表情に私を見下ろした。

「誰がお前の人生心配するか。通路を外れるという意味だ」

 言われて足元を見る。

 この植物園は、細い遊歩道が付いている。

 ジャングルの様に生い茂る草木の中で、迷わないという配慮なんだろうが、脇には小さな小石がずらっと並んでいた。

 私は、その小石をすでに跨いでいる。

「…………」

 でも、アレ。

 とてもきれい。

「誰か来ないか見張っていてください」

「はぁ?」
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