シャッターの向こう側。
 そんな事を言われたって、どの面下げて行けって言うの。

 絶対、いつもの私なんか保てなかっただろうし……

 しかも、堂々と盗み聞きした手前、行くに行けなかったし。


「ちょっと疲れてまして、さっさと帰っちゃったんです」

「忙しかったか?」

「普通……ですかね。会社にいる時よりは全然ですけど」

「あ~……そうかもな」

 立ち上がって、コートについた雪を払ってからバックを持ち直すと、ちらっとだけ宇津木さんが振り向いた。


「写真は撮れたか?」


 急に言われて瞬きをする。

「まだ現像はしてませんけど、それなりのものは撮れたと思います」

「ふぅん……」


 それからまた黙って歩きだす。


「…………」


 何だか変なの。

 宇津木さんが近況なんて聞いてくる。

 今まで、そんな事を聞いてきたことなんかないのに。


 変なの。


 でも……

 そう考えると、今までは隣の席だったから、そんなの聞く必要もなかったかも知れない。


「ところで宇津木さん」

「なんだ」

「会社はどうしたんですか?」

 ……何故か明らかに脱力したのが見えたりする。


「お前……今日が何日かは覚えてるか?」

「え? 28日?」

「会社は26までだろうが」

「あ……御用納め!」

「会社を離れた途端に、日にちの感覚なくなってるな?」


 すっからかんに忘れてるのは確かかも。

「でも、御用納めに仕事を終わらせた人はあまりいなかった気がします」

 グラフィックスの一部や、私みたいなフォトグラファーの平ならともかく、ディレクター関係は年末ギリギリまで仕事をしていたような?


「今年は手伝いをしなかった」

「手伝い?」

「毎年、有野さんにとっつかまる」

「それとどういう関係が?」

「メディアで一番変動が激しいのはCM関係だからな」

「あ……」

 なるほど!

 そうか、そういう事か。

「たぶん、そのせいで加倉井さんに怨まれるかもしれない」



 何故、佐和子に怨まれる……
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