シャッターの向こう側。

後日談……もしくは日常

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「何をニヤニヤ見てるんだ?」

 ソファーに座って昔のアルバムを広げていたら、彼はそう言って後ろから髪に触れる。

「昔のアルバム」

「……ああ。付き合い始めた時の」

 覗き込んだ先にあるのは一枚の写真。

 よく見るとうっすらお髭が見えるお姉様もいる中、私達のキスシーン。

「よく恥ずかしがりもせず、こんな事を出来たよね~」

「恥ずかしがったら出来ないだろ」

 いや。

 それはそうなんだけど。

「豪胆だよね」

「お前には言われたくないよな」

「たまには言わせてよ」

 クスクス笑うと、そっと髪をかきあげられて耳元に息を吹き掛けられた。

「ひゃ……っ」

「明日から出張なんだが」

 ジャケットを脱ぎながら、溜め息混じりに呟かれて振り返る。

「知ってる」

「仕事になるんだが」

「そんなの当たり前」

「一緒の部屋にしたから」

「公私混同は良くないような気がする」

「夫婦で別々に泊まるのも良くないような気がするが」

 呟きながら、ジャケットを寝室の方に持って行った。

 片付け好きな旦那様。

 広げたアルバムを片付けろと言いたいのかも知れない。

 付き合って一年。

 結婚してから半年。

 宇津木雪になるなんて、夢にも思っていなかったあの頃。

「ねえ」

「ん?」

 キッチンに立って、グラスに麦茶を注いでいる姿を眺めつつにんまりと笑う。

「今度ね、ママさん雑誌の仕事をしようかと思うんだ」

「ママさん雑誌? 珍しいな」

「うん。だってママになるみたいだし」

「……誰が」

「私が?」

 しばらく沈黙が続いて、ガチャンとグラスを置く音がした。

「いつ!?」

「今、五週目だって。だからお祖父ちゃんとの来年やる写真集の仕事、断った」

「断ったって……楽しみにしてただろう」

「でも、0歳児連れて外国には行けないでしょ」

「明日の出張もキャンセルするか?」

「あの……病気じゃないんだから」

 呆れた声をあげると、キッチンから出て来て隣に座った。
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