シャッターの向こう側。
「つわりは?」

「今のところは平気」

「具合が悪いとか?」

「いや……だから、平気」

「どっちだ?」

 ん?

「名前はどうしたらいい」

 おいおいおい。

「いくらなんでも、気が早いよ」

 なんとなく呆然とした顔に、なんとなく吹き出した。

「何を慌ててるの」

「何でそんなに冷静なんだよ」

 ジロッと睨まれて笑いを引っ込めた。

 心配してるのが解ったから。

「具合が悪くなったらちゃんと言うから」

「解った。じゃ、とりあえずお前のスケジュールを調整しておく」

「その必要は今のところないって」

「いや。お前は無理するのが好きだから」

「人の事を言えない癖に」

 お互い睨み合って、それから吹き出す。

「妙な気分だな」

 正直な感想に頷いて、肩に顔を埋めた。

「病院に行った時はドキドキしたけど、先生がオメデトウって言ってくれた時、不思議と落ち着いた」

「そうなのか?」

「うん。それから写真集の事を思い出してね」

「ああ……」

「どうせなら、自分の子供を撮りたいな」

「……スナップかよ」

「さて、どんな風にしたもんか……」

 顔を上げてにんまり笑う私に、奇妙なものでも見るような視線が返ってくる。

「誰かの進路を変えちゃうかもしれない」

「何が言いたい?」

「夕焼けの海で……真っ赤な空に、波打ち際に立つワンピースの女性の後ろ姿」

 思わずニヤニヤ笑いを返す。

「あれ、私だもん」

 旦那様の目を丸くした顔がみるみる赤くなっていく。

 結構、すごい事を平気でする癖に、何故かこういう昔話には照れが入る旦那様。

「何で今頃そんな事を……」

「何となく忘れてた」

「そんなもの思い出すなっ」

「え──……」

「えー、じゃなく」
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