シャッターの向こう側。

世界樹……もしくはロマンチスト?

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「おはよう。早いな」

 目の前に座る宇津木さんを眺めながら、今日はクロワッサンをぱくつく。

「朝陽を撮ってみたんです」

「ふぅん? いい絵は撮れそうか?」

「どうでしょうね。出来上がるまでは言いたくありませんよ」

 宇津木さんはニヤリと笑ってコーヒーを飲む。

 あれからじっくりと書類を読んだ。

 このテーマパークのコンセプトは北欧神話。

 ユグドラシルとは、その神話の中に登場する〝世界〟を体現する大きな樹で〝世界樹〟とも〝宇宙の樹〟とも呼ばれている。


 たぶん、この高層ホテル自体が、それを現してるんだろう。


 それが解ってみると、だいたいが掴めてきた。

 ホテルの内装はチラホラと楽園チックだったし、高層階になればなるだけ幻想的な内装になっていたし。

 東の地区の建物が、北欧建築なのも納得だった。


 まぁ、細部を神話に合わせているかと言うと……どうもそうじゃないみたいなので、厳密に言うと、イメージだけ掴めばいいのかも知れない。



 夢の世界……と言う訳だ。



「そう言えばお前、昨日は現像しに行くとか言ってなかったか?」

 宇津木さんが、朝刊を広げながら小さく呟いた。


 ……あんたは一家のお父さんか。


「時間がなくなったからやめました。15時過ぎに現像しに行きますから、それまで待ってください」

 ちらっと顔を上げた宇津木さんが、眉をしかめて首を傾げる。


「お前。顔が変だぞ」


 それはどういう意味だっ!!


「青いと言うより、土色? 不気味だ」


 ……けなしてるのか?


 ……それとも心配してるのか?


「夜中を使ってホテル内部を撮りましたから、ちょっと寝てないんです」

 人が入ったらなんか嫌だったから、居なくなる時間を待っていたんだけど……

 雨降りだったせいか、プレオープンで少ないとは思っても、常に人の影があった。

 おかげで、最上階のVIPルームやウェディングスィートルームまで見せてもらえたけど。


 けっこう眠い。


「……何もそこまでしろとは言ってないんだが」

 淡々と呟かれる言葉に、にんまり笑う。

「私がやりたくてやった事ですから。お気になさらずに? カメラさえ構えてれば、たいてい眠くはないですし」
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