シャッターの向こう側。
 思えば今まで残業をしてこなかったから、こんなやり取りもあまりしたことがない。

 残業するなら、デスクワークの時よりも撮影先での事が多いから。

「あ。そう言えば、こないだ出張に行った時の写真。見せてもらったけど、あれ面白かった」

 と、後ろの席の人に言われて、苺を食べつつキョトンとした。

 確かグラフィックデザイナーの今野さんだっけ?

「なんですか?」

「あれ、なんだっけ……? 宇津木さん、もう下刷りは出来たんですよね?」

 今野さんの視線が移って、宇津木さんを見た。

「ん……まだピヨには見せてない」

「なんで見せてないんですか」

 T市のやつかな?

 宇津木さんはモンブランを片手に、デスクの引き出しから青いファイルを取り出して渡してくれる。

「とりあえず出来たのは、ホテルの案内と遊戯施設の案内版。先方はこれでいいって了承得たから」

 苺ショートのお皿を置いて、ファイルを開く。


 一枚目のパンフレットは、ホテルの案内書。

 高層ホテルの外装の写真が表紙に使ってある。

 それから中を見ると、温泉施設、部屋の内装、ウェディングスイート、フロントとその天井を写した写真。

 さすがにエレベーターのボタンは使わなかったのか。

 全体的には落ち着いた雰囲気のパンフレットだ。

 それから二枚目の遊戯施設のパンフを見ると、ジェットコースターから撮った写真が表紙に使われていた。

 メリーゴーランドの写真、ゴーカートの写真、観覧車……うんうん、なかなか面白い配置で写真が使われている。

 だけど……

「これのどこが面白いんですか?」

 顔を上げると、今野さんはニヤニヤしながらパンフレットの裏表紙を指差した。



 そこに見えたのは『来てくれないと…』という文字。

 そして……


 打ちひしがれたワンワン…の着ぐるみ。


「ええ~!!」

 不満いっぱいの声を上げると、今野さんがのけ反った。


 これ使った訳?

 あんなに文句言ってたのに?

 キッと宇津木さんを睨む。


「宇津木さん、ずるい!」

「何がだよ」

「私にはふざけるなとか言ってたじゃないですか~」
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