ウソ夫婦

「じゃ、ホテル行こうか」
「ほ、ほてるっ?」
あすかは声が裏返った。

なぬ〜。間髪入れずに、そう来たか〜。

ジェイは興味深そうな眼差しであすかを見ると「明日のスーツを試着しろって、お前言ってただろ」と言う。

「そ、そうだよね」
あすかは一気に噴き出した汗を、手の平で拭った。

「したいなら、今すぐでもいいけど」
ジェイはこみ上げる笑いを抑えて言う。

「違いますっ」
あすかはぷいっと横を向いた。

「相変わらず、解りやすい女だな」
ジェイはそう言って、あすかの手を取り歩き出した。

成田空港を歩く女性たちが、ジェイの横を通り過ぎると思わず振り返る。それくらい目立って、特別にカッコよかった。カジュアルなダウンジャケットにデニム。少しウェーブした金色の髪に、コバルトブルーの瞳。久しぶりに見るジェイに、あすかはドギマギした。

「日本は、夏がバカみたいに暑くて、冬もバカみたいに寒いな」
「バカバカって、失礼しちゃう」
「別にバカにしてるわけじゃないよ」
「わかってるけど」

冷たい北風に首をすくめながらタクシーに乗り込むと、ジェイは「ふう」と息をついた。

「ホテル日航東京まで」
あすかが運転手に告げると、車は静かに走り出した。

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