恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「フン……知らなかったらしいな。カヤのことだ、アンタの命令で寝た相手との間に子供ができただなんて、言えないんだろう」


俊平の夏耶に対する勝手な見解は聞き流しつつ、桐人の脳裏浮かぶのは、最近のすこし元気がない彼女の姿。

そう言われてみれば、長引く体調の悪さだけでなく、最近はかかとの低い靴を履いてくることが多かったり、コーヒーを飲む頻度が減っていたり。

俊平の言葉など信用したくはないが、桐人の中でも思い当たることは多かった。


「当然、父親は俺ですから。……もう一度言います。カヤに会わせて下さい」


もしかしたら、今回ばかりは二人を合わせた方が、夏耶のためかもしれない。

未婚で、子供ができてしまったとなると、当事者同士で話し合わなければならないことは山ほどある。

弁護士としても、それから人としても、本来なら彼らが会って話すことを、今は認めなければならないときであろう。

しかし――――。


「……お断りします」


桐人の中の“男としての自分”が、それを許せそうになかった。

俊平は、ここまで言えば彼が折れると思っていただけに、困惑した顔で桐人を見る。


「っていうか……それなら、父親、俺かもしれないですし」

「は……?」

「いやー、実は彼女をあなたの元へ派遣したその翌日、“よくやった”――って意味も込めて、たっぷり可愛がってあげたんですよね」


我ながら、悲しい嘘をついているという自覚は桐人にもあった。

けれど、今の目的は、俊平を確実に追い返すこと。

口喧嘩で、弁護士に勝てる者などそうそういない。

さっさと戦意喪失して帰ってくれと、桐人の内心は切実だった。



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