恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
桐人は、俊平の顔に怒りが広がる様子をしばらく涼しい顔で見ていたが、やがて自分に男を見つめる趣味はない、と視線を街並みの方へずらすと、軽い調子で言う。
「……まぁ、そういうワケなんで。今日のところはお引き取り願えますか?」
しかしその飄々とした様子は俊平を逆上させ、彼はさらに桐人に噛みついた。
「……カヤがあんな風になったのは、アンタのせいだな?」
「あんな風? ……ああまぁ、彼女に男を誘う術を教えたのは俺ですけど」
「最っ低な弁護士だな」
「なんとでもどうぞ。しかし彼女を開発するのは楽しかったですよ? ああいう擦れてない子って、意外と伸びしろがあって――――」
調子のいい嘘をぺらぺらと並べ立てていた桐人に、俊平はついに我慢できなくなった。
鼻息を荒くしながら桐人の胸ぐらをつかみ、脅すように低い声を出す。
「……ふざけんな」
「……弁護士に暴力振るうって、なかなかの自殺行為だけど、大丈夫?」
動揺の欠片も見せない桐人に俊平の苛立ちはどんどん高まっていき、至近距離で桐人をにらみつけながら、とうとうあの事実を口にした。
「……アンタ、カヤが妊娠してることを知ってて、それでもそんないい加減なこと言ってられんのか?」
(……! 妊娠……だって……?)
桐人はそこで初めて、かすかではあるが瞳に動揺の色を浮かべた。
それを見て多少冷静になったらしい俊平は、つかんでいた桐人の襟首を解放して、大きく息をつく。