恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
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「……先生、遅いスね」
事務所では豪太と夏耶が、電話の後いくら経っても帰って来ない桐人を待っていた。
「……女の人から電話かかって来ちゃったとか?」
「あー、あり得そ……いや。でも最近の先生って、あんま女の人とどっか消えたりしなくなりましたよね?」
「……そう言われてみれば」
最近の桐人は、至極マジメである。
口では軽い発言をするものの、事務所からフラッといなくなってしまうようなことは減り、女性の影も薄れた。
「本命が見つかった……とか?」
夏耶が思い付きのように言ってみると、豪太は腕を組んで首をひねった。
「それはないと思います。だって先生、沢野さんが受かったら――――」
言いかけてから“マズイ”という顔をして、豪太は口をつぐんだ。
別に桐人から口止めされているわけではないが、自分だけでなく夏耶にとっても師である桐人が、彼女の司法試験の合否で日本を離れるか否かを決めようとしているなどと、今は言うべきでない気がした。
「……? 私が受かったら?」
「……や、なんでもないです。俺、ちょっと電話してみます」
夏耶は豪太が電話を掛ける姿をぼんやりと見ながら、思う。
(先生……さっきは、急いで帰るって言ってたのにな)
豪太が何度かけ直しても桐人は電話に出ず、夏耶はしばらくすると諦めて椅子から立ち上がった。
「……先生、いつ帰って来るかわからないから、明日にしようかな。」
「あ、明日は出られそうですか?」
「うん。ゴメンね、今日は久々に体きつかったけど、もう平気」
夏耶の微笑みに豪太もほっと胸を撫で下ろし、彼女が帰るのを見届けると、デスクで仕事を再開させた。
豪太が一人で事務所にいる間も時間は刻々と過ていき、外は次第に暗くなっていく。
そして、結局事務所を閉める時間になっても、桐人は帰って来なかった。