恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
夏耶が桐人に呼び出されたのは、その翌朝。
今度こそ彼と話を、と早めに出勤していた夏耶のもとに、電話がかかってきた。
『今から言う場所に来て』
挨拶もそこそこに、あるマンションの住所を教えられると、一方的に電話は切れてしまった。
「……また話せなかった」
夏耶はふう、と息をつくと、書き留めた住所のメモを片手に、バッグを持ってすぐに事務所を出た。
桐人がこうして忙しくしているときは、たいてい何か重要な案件を抱えている。
昨日、帰りが遅かったのも、きっと同じ理由だろう。
(先生のそばにいるうちに、吸収できることはしておかなくちゃ。……この子のためにも)
桐人の元へ向かう途中、夏耶はお腹に触れて、そんなことを思う。
律子に叱られて以来、彼女はそれまで抱いていた被害者感情を捨ててみることにした。
すると自然に、母性のような優しい気持ちが少しずつ育ってくるのを感じていた。
自分ひとりで子供を育てるにはどうしたらいいだろう――。
そう思って必死で情報を集めている最中、司法修習の間に妊娠・出産を終え、今では第一線で活躍する女性弁護士がいることも知った。
もちろん、生半可な努力がなくしてはできないことだろう。
今のうちに、仕事のことも、精神的な部分も、しっかりと基盤を作っておかなくては。
最近の夏耶は、そうして自分を奮い立たせることで、毎日を生きる力にしていた。