恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
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指定されたマンションの部屋の前に夏耶が到着したとき、桐人はドアの前で津田と話し込んでいた。
津田のことは夏耶も何度か見たことがあったが、印象は怖い顔の刑事ということくらい。
夏耶の存在に気付いても眉ひとつ動かさない津田を、やはり怖いと思いながら、彼女はふたりに近付いて行く。
「先生、おはようございます」
「ああ、早かったね。……昨日帰れなかったのと、今日も朝からゴメンね」
「いえ。……それで、ここって……」
開け放たれたドアの中には警官が数人いて、夏耶はなんとなくその場所で起きたことが予想できた。
前にも一度、桐人とともにそういった現場を訪れたことがあり、その時は思ったより冷静でいられたのだが。
今は妊娠中のせいか、部屋を覗いただけで吐き気がせり上がってくる気がした。
「まぁ、お察しの通り“サツジン現場”だよ。死体はもうないけどね。今、容疑者として逮捕されてる被害者の夫を、俺が弁護することになってるんだ」
「そうなんですか……」
(やっぱり……)
夏耶が目を伏せて浮かない顔をすると、それを見ていた津田が嫌味っぽく言う。
「……現場を見たくないのか。そんなんで、弁護士になれるのか?」
思わずかちんと来た夏耶は、何か言い返そうと津田をキッと睨みつける。
けれどその視線は彼女と津田の間に身体を割り込ませた桐人によって阻まれ、夏耶に代わって桐人が津田に反論した。