恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
『はぁい』とつまらなそうに返事をする電話の向こうの女に、津田はいつでもペースを乱されてしまう。
けれど、情報を集めるなら彼女の右に出る者はいない。津田もそこだけは信頼しているから、彼女を頼ったのだ。
『おもしろいことがわかったよー。検事長って、一人息子が海外留学してるーってことになってるみたいだけど、どうやらその真実は、違うみたいなの。高校の頃からひきこもり気味の息子の存在を消すために“海外留学”だなんて嘘ついて、息子には母方の姓を名乗らせてるんだってー』
間延びした声の向こうでは、煎餅か何かをかじる音がする。
全く、こいつは……と思いながらも、津田は怒りを抑えて聞く。
「母方の姓……“三河”か?」
『ビンゴ! ついでに、検事長が彼のために買い与えたマンションの情報も送っとくねー』
「サンキュ。……助かった」
『お礼はデートか、キスでもその先でもウェルカム――――』
彼女が言いかけている途中で容赦なく電話を切った津田は、後輩刑事に告げる。
「オイ、沢野夏耶の監禁場所が分かった。すぐに向かうぞ」
「はははいっ!」
緊張してどもりながらも、ナビに住所を入力する後輩刑事。
彼は車を発進させると、バックミラー越しの津田の表情からほんの少し緊張感が緩んだのを見て、勇気を出して口を開く。
「今の電話……相手、吉野刑事ですか?」
「ああ。……なぜわかった」
「だって津田さん楽しそうだったし」
「…………。無駄口叩いてないで運転に集中しろ」
後輩刑事はすいません!と謝りつつ、きっと図星なんだろうと思うと少しおかしかった。
そして、そういう人間臭いところも含めて、やっぱり津田はカッコいい刑事だと、憧れの気持ちを強めるのだった。