恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……なんでサツが来てんだよ」
携帯電話をはじめとする夏耶の持ち物は最初に奪ってあるから、彼女が連絡することは不可能だろう。
だとしたら、誰がこの場所を……?
警察には、検事長である父親の存在が影響して、自分のことを調べようとする刑事などいるはずがないのに。
三河はモニターの前で、刑事たちを無視するか、それともあえて対応してしらを切りとおすか、しばし逡巡した。
すると、ふいにリビングの方から物音がしたような気がして、三河は視線を部屋の中に戻した。
さっきまで彼女のいた場所にその姿はなく、代わりにベランダに続く窓が開き、カーテンが風に揺れていた。
「あの女、バカか……! ここは二十八階だぞ」
慌てて窓の外に出て外を確認するが、真下の道路に夏耶の死体は確認できない。
三河が首を傾げていると、今度は彼の背後で「ガチャン」と静かに扉が閉まる音が聞こえて、彼はハッとした。
「しまった……ベランダはフェイクか……っ」
腹痛を訴えたのも、きっと演技だったのだろう。
今さらそれに気づいた彼は、悔しさと怒りではらわたが煮えくり返った。
判決など待たなくとも、自分の罪は父親の存在でどうにでもなる。
だったら、もう一人殺しても問題はないだろうと、彼は残虐な本性をむき出しにした。
「逃がすかよ……っ」
低い声で呟き、部屋を飛び出した三河はエレベーターに乗り込もうと通路を走る。
しかし、辿りついたエレベーターの前で、扉が両側からゆっくり開いた時。
彼の前にぬっと現れたのは、さきほどモニターに映っていた刑事の内の一人で――。
「三河だな? 残念だが、彼女は警察が保護した。……茶番は終わりだ」