恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
裁判官は少し考える素振り見せ、桐人も瑞枝も固唾をのんでそれを見守っていた。
――そのとき、ふいに傍聴席から携帯の着信音が聞こえて、張りつめた空気が一瞬緩んだ。
傍聴人は携帯電話の電源を切っておくのがルールであるが、それを破らざるを得ない人物が一人、そこに座っていたからだ。
その人物――豪太はルール違反を重々承知のうえで、堂々と電話に出た。
「……はい。中野です」
そんな彼を、法廷警察官が外に連れ出そうと傍聴席に進入してくる。
豪太は“ちょっと待って下さい”と動作で伝えるが、二人の警察官に両脇を抱えられてじたばたともがいた。
それでも、携帯だけは耳から離さずにしていた彼が、とうとう法廷からつまみだされそうになった、その瞬間――。
「……っ! 相良さん! 沢野さんは、無事に保護されました――っ!」
出入り口の所で豪太がそう叫び、桐人は目を見開いた。
そうして豪太が扉の向こう見えなくなると、深く長い息をつき、胸に閉じ込めていた不安を吐き出していく。
(よかった……沢野。無事で……)
しかし、状況を飲みこめているのはすべてを知っている桐人だけ。
彼は、裁判官と瑞枝の視線を感じて顔を上げると、彼らしい不敵な笑みを浮かべて言った。
「検察側の提案に賛成です。その証人には弁護側も尋問したいことが山ほどあるので」