恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
先ほど、自分の推理を証明できずに追い詰められていた彼とは別人のように生き生きとした桐人を見ていると、裁判官は裏で何かが動いていたことを悟り、こう言った。
「……その提案を、受け入れます。しかし、手続きが間に合いませんので、証人尋問は次回に持ち越すということで、異論ありませんか?」
「はい」
「問題ありません」
桐人と瑞枝が揃って頷くと、増本茂を被告人とする裁判の、第一回目は幕を閉じた。
*
「相良さーん……!」
法廷を出て弁護士控室に戻ると、情けない顔をした豪太が桐人に抱きついてきた。
事情を話して、いちおう警察官からは解放されたらしい。
「……男に抱きつかれる趣味はないんだけど」
「冷たいこと言わないで下さい! 津田刑事から電話貰うまで、生きた心地がしなかったんですから……!」
「はいはい」
呆れながらも豪太の頭をぽんぽん叩いていると、控室の扉ががちゃりと開いて、たった今噂していた人物が姿を現した。
「津田刑事……! 沢野は? 今どこに?」
「……慌てるな。ここからそう遠くない病院で念のため色々検査をしている最中だ。本人は“別にいい”と言っていたが、よくよく聞いてみたらあの女妊娠してるらしいじゃねぇか。だから、俺が無理矢理受けろと言ってきたんだ」
「……え!? 沢野さんが妊娠!?」