恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
ひとり衝撃を受ける豪太をよそに、桐人は安堵の気持ちで胸がいっぱいになった。
それは桐人の表情からも見て取れ、津田は病院の場所を記したメモを彼に渡しながら、こう問いかける。
「……お前が父親なのか?」
桐人は苦笑し、首を横に振る。
「だったらよかったんだけどね……とにかく、彼女のこと助けてくれて、感謝してる」
「三河が怪しいと最初に疑ったのはお前だからな。……これで貸し借りはなしだ。しかし、次の公判では検事長を尋問するんだろ? 能天気な顔するのはまだ早い」
「まぁね。……でも、彼女が戻ってくれば百人力」
「……結局、お前の頭ん中は女のことばっかりか」
やれやれ、という風に頭を振って、津田は控室をあとにした。
すると、入れ替わるようにしてやってきたのは、なんと検察官の瑞枝であった。
「失礼します」
「これはこれは、牧原検事。相変わらずお美しいですね。俺に何か用ですか」
桐人の軽い発言にぴくっと頬を引きつらせながらも、瑞枝はその場で深々と頭を下げた。
「……ちょっと、どうしたの」
「信頼していた上司からとはいえ、差し出された証拠品を何の疑いもなく受け取った自分の浅はかさに気付かせて下さって、ありがとうございました。検察官として、恥ずべき立証をするところでした」
「いやいや。でも、証人のことは、牧原検事が言い出してくれなければ、俺にはできない提案でしたよ。本当に、助かりました」
瑞枝が頭を上げると、桐人はにこにこと人懐っこい笑顔を浮かべていて、彼女の胸がトクンと音を立てた。