恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
琴子は彼の話に耳を傾けながら、グアムの熱い空気の中で、はじめて身体を重ねたときのことを思い出す。
俊平に命を分け与えてもらっているような感動を覚えたあのとき、彼の心には別の人が居たということか。
だからあんなにも切実に、自分を求めてくれていただなんて……なんという皮肉だろう。
「それから、俺は全力で琴子を愛そうって、決めたはずなのに……いつまでもカヤが消えなくて……。同窓会の日に彼女と寝たんだ。そのとき、俺の心の中に琴子はいなかった」
「同窓、会……」
小さな唇を動かし、確認するように琴子は呟いた。
自分の記憶が正しければ、その日は何も起きなかったはずなのに、どうして。
そう疑問に思うのと同時に、以前桐人に、録音した音声を聞かせたときの光景が琴子の脳裏に蘇った。
(そう、か。あのとき、彼は私に嘘を――――)
あのとき彼に預けた小さな機械は桐人が持ったままだ。きっと、自分に聞かせないために、そうしたのだろう。
つまり騙されていたということだが、琴子は桐人に対して怒りの感情など湧かなかった。
むしろ彼の優しさを感じて、胸の奥が小さく疼く感覚がした。
(彼は今日、日本を離れてしまうんだ。飛行機の時間はまだ大丈夫よね……)
桐人本人からその連絡を受けていた琴子は、俊平の話よりも時間の経過が気になってきた。
しかしそんな彼女に気付くことなく、俊平は自嘲気味に話を続ける。
「だけど、結局カヤとはうまくいかなくて……もう一度会うことすら叶わなくて。そんな時に、彼女によく似た元教え子が現れて……俺は彼女を、欲望のはけ口に利用したんだ」