恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
俊平が口を開くたびに、会場の空気がどんどん重くなる。
そして、彼自身の顔色が青ざめていく様子を見て、琴子は哀れみさえ覚えた。
(もう……仕返しは充分。私たち、お互い自由になりましょう――)
そう胸の内で呟いた琴子は彼女のか細い手を覆っていた光沢のある白いグローブをするすると外した。
そして裸になった手を、俊平の顔の横で思いきり振りかぶる。
即座にこれから起こることを察知した俊平だが、彼は一切、避けようとしなかった。
――――パシン!
会場に乾いた音が響き、頬を張られた俊平は目を閉じて痛みに耐える。
琴子はそんな彼に、ひとことだけ。
「……さよなら」
そう告げると、ウエディングドレス姿のまま、会場をあとにした。