恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「もしかして……おとうさんなの?」
信じられない言葉が耳に入ってきて、俊平は思わず足を止めてしまった。
どうして真人がそう感じたのかはわからない。
母親である夏耶と同年代の大人の男性ならみんな、そういう風に見えてしまうのかもしれない。
――それでも。
俊平にはどうしても、真人の本能がそう言わせたのではないかと思えて、乾いたはずの涙が再びこみ上げるのを感じた。
(でも……俺は肯定しちゃいけない。それが真人のため。夏耶のためだ)
ぐっと拳を握った俊平は、なんとか涙を目の奥にとどめて、真人の方を振り返る。
「……俺は。真人のお母さんの、古い友だちだよ。でも……真人とお母さんが、いつも元気で、楽しく暮らせますようにって……それだけは、ずっと、祈ってる」
「うん……わかった」
俊平が父親でなかったことに少ししゅんとした様子の真人だったが、最後は気を取り直したように頷いてくれた。
そして俊平に手を振ると、タタッと家の方に駆け戻って行き、やがて小さな背中は見えなくなった。
(元気でな……真人)
胸の内で呟いた俊平は、真人と交わした会話や無邪気な表情をひとつひとつ心に刻みつけると、今度こそスーパーに向かった。
店先に、無料の求人雑誌があれば、持って帰ろう。
そして、いい加減、前を向こう。
まるで長い冬眠から覚めたように、俊平もようやく新たな一歩を踏み出そうとしていた。