恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「……なんだよ。もしかして中野のクセに、俺を担いだってわけ?」


桐人は豪太を軽く睨むと、ぼそりと言う。
明日の裁判がどうのと言うのはおそらく自分をここに呼び出すための嘘だったのだ。


「そういうことです。それほど、相良さんが帰って来るのを待ちわびてたってことですよ。事務所の名前も変えずに」

「あ。それ聞こうと思ってたんだ。なんで前のまま……」

「それはこれからゆっくり説明しますから、とりあえず乾杯です、乾杯」


桐人の背中を無理矢理押し、ソファの方へ促す豪太。桐人は戸惑いながらも、こんなに歓迎されて悪い気はしない。

津田の隣に麻衣子が座り、その向かいに豪太と並んで腰掛けると、桐人は津田から受け取った缶ビールのプルタブをプシュッと開ける。


「それじゃ、相良法律事務所所長のご帰還を祝って、乾杯!」

「かんぱーい」


豪太と麻衣子だけが盛り上がって声を上げ、桐人と津田は静かに缶を掲げた。

乾杯が済むと、豪太は「ピザでも取りましょう」とスマホを手に立ち上がり、部屋の端に移動して電話をかけ始めた。

その背中を見ながら、津田が静かに語る。


「アイツ、お前がいない間も“永久欠番だ”とかなんとか言って、所長の椅子はお前のためにずっと取ってあったんだと。自分は所長の器じゃないし、お前がいつかこうしてひょっこり帰って来るんじゃないかって期待もあったらしい」

「……そうだったんですか。永久欠番……」


しみじみ呟いて、所長席のほうに視線を投げる。少し埃をかぶっている以外、五年前と何も変わらないデスクがなんだか懐かしい。

豪太の心遣いを素直にうれしく感じながら、桐人は缶ビールを傾ける。


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