恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「動くなよ。あーもーめんどくせぇ……」


心底イラついた声で俊平はそう言うと、夏耶のシャツの襟もとにあった手を、力任せに引っ張った。

白いボタンが音を立ててはじけ飛び、夏耶の胸元が一気に露わになる。

ベッドの脇にある窓から差し込む西日に照らされた夏耶の肌は、昔俊平が父親の趣味で見せられた、セピア色の映画に出てきた女優のそれとよく似ていた。

子どもにはひどく退屈な映画だったが、“きれいだな”ということだけ感じた記憶がある。


「カヤ……すげ、きれい」


だから、俊平は鎖骨を指でなぞりながら素直にそう口にしたのだが、夏耶はそんな褒め言葉など嬉しくはなかった。

服を無理矢理はがされてからずっと彼女は小刻みに震えていたのだが、俊平はそんなことにはまったく気づかず、夏耶の胸の谷間に顔を埋めようとする。

そして、彼の舌先が夏耶の肌をそうっと舐め上げたとき。


「や、やだ――! やめて、しゅんぺー……っ!」


夏耶は恐怖の限界を迎えてしまい、そう叫んだのだ。

目尻に涙を滲ませ、カタカタと子猫のように震える夏耶の怯えた姿に、俊平はそのとき初めて気が付いた。

咄嗟に身を離して理性を取り戻した彼は、少し急ぎ過ぎたかと後悔する反面、夏耶の態度は腑に落ちなかった。

夏耶は自分を“好きだ”と言った。

そして、今や中学生でセックスしている輩もいるこの時代に、高三で、避妊の知識だってちゃんとあって、何より相思相愛な自分たち――。


(好きなら……なんで拒むんだよ……)



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