恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
俊平は行き場のないやりきれなさから、ボタンの取れてしまったシャツの前をかき合わせてしゃくり上げる夏耶に、優しい言葉のひとつもかけなかった。
夏耶の姿が視界に入らないようにそっぽを向き、彼女が鼻を啜る音に胸を痛めながら、けれど自分の方がよっぽど可哀想だと思ったりもした。
そのうちに窓の外の太陽は沈み、部屋が薄暗くなっていくにつれ、お互いの気持ちもどんどん見えなくなった。
「……しゅんぺー……なんで……」
だから、暗闇の中で夏耶が嗚咽交じりにそう言ったとき、俊平はもう何もかもがどうでもよくなっていた。
(なんで……? そんなもん自分で考えろよ)
突き放すように心の中で呟くと、彼はわざと心にもないことを口にした。
「……前から思ってたんだよ。カヤってエロい体してんなって。だから、チャンスあったら押し倒してやろうって思ってた」
「……っ! そんな、目で、見てたの……? わたしのこと……っ」
夏耶の目から、再びはらはらと涙がこぼれおちる。
……今の発言はさすがにまずかったか。
俊平はちくんと胸に針が刺さったような痛みを感じたが、慌てて撤回するほど間違ったことも言ってないと思った。
(エロい目で見んのは、相手がお前だから……カヤのことがどーしようもなく好きだから……俺だって自分のこと制御できなかったんだよ……)
俊平の無言を肯定ととったのか、夏耶は「ひどい……」と小さく呟くと、ゆっくり立ち上がる。
そして、右手首からうっとうしげにリストバンドを外すと、俊平の部屋の床にぽとりと落とした。
――その瞬間、俊平の中で、ひとつの恋が壊れる音がした。
「カヤ……お前、もう二度とここに来んな……」
夏耶はその言葉に返事を返すことなく、俊平の部屋を後にした。