恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


二軒となりの自分の家に、逃げ帰るようにして帰ってきた夏耶。

母親の「ごはんはー?」という声を無視して自室にこもると、彼女は枕に顔を押し付けて泣いた。

クラスの男子が、ときどき下品な話で盛り上がっているのは知っていた。

でも、俊平だけは違うと思っていたのに……

そういう、汚らわしい気持ちを抱いたりする人ではないと思っていたのに――と。

そのときの彼女には、俊平がどうしてあんなことをしたのか、全く理解できなかった。





夏耶はその事件の直後こそ恐怖や怒りで頭がいっぱいだったが、俊平と距離を置くようになると、次第に自分の中で彼がどれほど大きな存在だったか思い知らされた。

たとえば、今までクラスの他の誰と話していても、自分の目は俊平の姿が教室のどこにあるのか瞬時に見つけ出して、ただそこに彼がいると思うだけで、安心感を覚えていたこと。

バスケットボール部の練習を見に行くことをしなければ、自分の放課後は受験勉強をする以外何の実りもない、退屈な時間であったこと。

そして……俊平と距離を置けば置くほど、彼のことを考える時間が増え、彼の家の前を通りかかる度、二階の俊平の部屋を見上げてしまうこと。


夏耶がそれらに気がついた頃、彼女は知らず知らずのうちに俊平の姿を探し、見つめ、きゅうと締め付けられる胸の苦しさを持て余すという、誰もがよく知る――けれど彼女にとっては初めての病の初期症状が現れていた。

夏耶は鈍感ではあったが、頭は悪くない。

そして、自分に訪れたこの変化を受け入れられるくらいに、素直な心も持っていた。


(私……俊平のこと、好きだ……)




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