恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
いつか自分が口にした“好き”とは違う、切なく胸が軋むような想い。
そして……できることなら手を伸ばして、相手に触れたいという願望。
もしかしてあの日の俊平は、この気持ちを抱えながら私と向き合っていたのではなかったか。
汚らわしさとは程遠い、心の奥から素直に溢れるこの気持ちを。
(もしもそうだとしたら、私はきっと……俊平を深く傷つけた――)
夏耶がそれにやっと気が付いた頃には、彼女は都内の私大に、俊平は地方の国立大へと進路を定めていて、彼女は卒業までの残りの数カ月で関係を修復する自信はなかった。
――この恋は、過去のものにするしかない。そう思うのは簡単だった。
しかし高校を卒業して彼との物理的距離が離れても、どんなに大学で勉強に打ち込んでも……夏耶は目を閉じるだけで、俊平の姿をまぶたの裏に、ハッキリ映すことができた。
ときには別の人を好きになってみようと、自分に好意を寄せてくれた同級生や先輩からの告白を受け入れたこともあった。
けれど何かにつけ俊平と比べている自分に嫌気がさして、夏耶から相手を振る、その繰り返しだった。
そして、大学を卒業して、相良法律事務所でアルバイトを始めた後も――
愛しい幼なじみの存在と、自分の無知さゆえに彼を拒絶してしまったあの日の後悔は、夏耶のなかで一日たりとも消えることがなかった。