恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
今まで、涙ぐむ程度だった夏耶の表情はみるみるうちに崩れていった。
そういえば、俊平にもあの夜言われたではないか。
『中出しまで許すとか馬鹿じゃね―の?』――と。
今考えると、本当に後先何も考えていなかったのだとわかる。
けれど、それは今だから言えること。
長年募らせた初恋が実を結んだと思えたあの瞬間の自分に、その先にある可能性まで予期して、俊平に避妊を頼む冷静さはなかった。
「……大きな声出してゴメン。とにかく、私は堕ろすの絶対反対だからね」
「う……っ、ひっ……うん……ゴメ……」
「……私に謝られてもね」
呆れたように言った律子は、泣き続ける夏耶と、少しも手を付けていない料理を残して伝票を握り、席を立とうとする。
慌てて自分も立ち上がろうとした夏耶だが、律子に「いいよ。……おごるって言ったでしょ」と静かに言われて、それに逆らえなかった。
(りっちゃんの言ってることは、全部正しい……私は、なんて無責任で馬鹿な女なんだろう……)
そう考えると、夏耶は胸の痛みに加えて下腹部もズキンと痛んだ。
――お前は母親になる資格などない。
どこかから自分を見ている神様か誰かにそう言われているような気がして、夏耶はしばらく背中を丸めて椅子に座ったまま、動けなかった。