恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


俊平は怪訝そうに眉を顰めた。

律子といえば、夏耶の一番の友人である。

彼女から同窓会の日にあったことを聞いて、何か文句でも言いに来たのだろうか。

あの件に関して、悪いのは、夏耶のほうなのに――。

俊平の脳裏にあの夜の忌々しい記憶が蘇って、俊平は思わず口の中で小さく舌打ちをする。


「……なによ。あからさまに嫌そうな顔しちゃってさ」


車から降りた律子は、腕組みをしながら俊平をにらんだ。


「いいから早く用件を言えよ。……ただし、カヤ関係の話なら聞かない」

「は? なにそれ。アンタ、自分がしたことの重大さがわかってるの?」

「うるせーな……お前には関係ないだろ。あ、そうだ。俺さ、九月に式挙げることになったんだ。お前んとこにも招待状送るから、あとで住所教えて――――」


その瞬間、俊平の視界に、右手を振り上げる律子の姿が映り込んだ。

けれど避けている暇はなく、乾いた音とともに彼の左頬に強い痛みが走る。


「……アンタ、いつからそんな最低なヤツに成り下がったの? 綺麗な婚約者がいるくせに、夏耶がまだ自分に気があるってわかったら手を出して。あげく、夏耶の心も体も傷つけて、自分は式挙げるから祝福してくれですって? ……そんなの、虫がよすぎるわよ」


律子は怒りを抑えたように、声を震わせてそう言った。


(カヤが傷ついたって? ……どうせ嘘だろ。アイツ、親友まで騙してんのか)


ひりひりと火照る頬を撫でて苦い顔をする俊平。

けれど、彼は自分の最低さも決して否定はできないから、黙りこくって律子が落ち着くのを待つ。



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