指先からはじまるSweet Magic
「ね。転職とか異動とか……仕事上の変化って、男にとって『転機』なの?」


一度迷ってから、意を決して顔を上げて、市川君に真っ直ぐ質問を向けた。
市川君は、ん?と首を傾げる。


「まあ、一般的に言えば、いろんなこと決着つけようってきっかけになるだろうな」

「だよね……」

「ちなみにそれ、誰のこと?」

「え? ああ、うん。……幼なじみの美容師のこと」


店員さんが注ぎ足してくれた並々のお水を口に含んでから、私はハアッと溜め息をついた。


そう、だから私も圭斗の言葉を聞いて真剣に将来を考えている彼女がいたりするのか、と思ったのに。


テーブルの隅に並んだ薬味の器に目を逸らしながら、私は無意識に自分の唇に指を当てた。


それならどうして、圭斗は私にあんなキスをしたんだろう。


遠慮なく散々快感の声を漏らしてしまったせいで、本当に変な気分にさせてしまった?
いや、それなら非は私にあるのかもしれないけど……。
昨夜の圭斗の行動から連想した『欲情』って言葉が、圭斗にはあまりに当て嵌まらない。


しなやかで気まぐれな猫みたいな圭斗に、そんな男っぽい獣みたいな言葉……。


なんだか横顔に痛いくらいの視線を感じて、私はハッと我に返る。
そして、向かい側の市川君をチラッと見た。
市川君は、さっきよりもニヤニヤして意地悪に目を細めて腕組みしている。
< 23 / 97 >

この作品をシェア

pagetop